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2023

こんな未来を実現したいというロマンで都市は変わっていく──BnA代表・田澤悠と考える、文化の芽吹くまちづくり

文化拠点としてのホテル

泊まれるアートをコンセプトに、部屋全体のデザインをアーティストが行う「BnA HOTEL」。高円寺と秋葉原、京都に展開しており、2021年4月には日本橋に「BnA_WALL」が開業しました。

「BnA_WALL」は、YOSHIROTTENやカワムラユキなどの日本を代表する気鋭のアーティスト、アートディレクター23組と共に宿泊型アート作品26部屋を制作し、一部屋ごとにコンセプトが異なるスタイルになっています。また、宿泊費の一部を部屋の制作に関わったアーティストに還元するシステムを導入しており、新しいパトロネージュのモデルを模索していることも特徴のひとつ。

今回は、そんなBnA株式会社を率いる田澤悠さんにお話をうかがうことで、文化拠点としてのBnA Hotelがいかにして生まれたのか、その過程で合理性と非合理性のバランスをどのように見てきたのかについて明らかにしていきます。

インスピレーションが生む新たな経済圏

──BnA_WALLには『Night Design Lab』を運営するNEWSKOOLのメンバーで遊びにいったこともあり、今日はお話を伺えるのをとても楽しみにしていました。さっそく脱線するかもしれませんが、BnAが展開する各ホテルのなかで田澤さんが特にお気に入りの部屋ってあるんですか?

泊まりに来ていただいてありがとうございます。わたしが気に入っているのは、「BOREDOMS」のフロントマンを務める山塚EYEさんが手掛けてくれた「D/R/M」という部屋ですね。この部屋は世界で1番尖っているホテルルームだと思っています。

一見すると普通のホテルルームなのですが、ベッドの下にある隠し扉を開けるともう1つの部屋があります。その中では、音と光のノイズサウンド・インスタレーションが展開されており、体験現代アートに囲まれて一夜を過ごすという強烈な体験をできます。

──その部屋も泊まりに行きたくなりました(笑)。いまのお話におあったように、BnAはホテルを“アート体験をきっかけに自身の変化を楽しむ場所”として捉えているのが特徴的ですよね。このコンセプトが生まれた経緯から伺えますか?

BnAの原点は、インスピレーションの連鎖が起こる場づくりがしたいという点にあるんです。宿泊者は、アーティストが考え抜いた作品の中で一晩過ごすことによって、泊まる前と泊まった後で社会への眼差しが変わったり、自分も作品をつくりたいという気持ちになったり。そんな経験を提供できればと思っています。

今年の4月に日本橋に新たにオープンした「BnA_WALL」のコンセプトは「疲れに行くホテル」なんです。そこでも、インスピレーションの連鎖の要素が色濃く出ています。

宿泊者は、ロビーラウンジにてスパイスの効いたウェルカムドリンクを飲みながら、定期的に塗り替えられる大型壁画「WALL」を鑑賞することで、日常から非日常へとマインドを切り替えてもらう。その後、ホテルルームに入ってからは、ガイドブックを読むことで、作品を解釈に意識を向けてもらう。

このように宿泊してくれる方の体験を一つひとつデザインしていくことで、ホテルでの経験をその場で咀嚼して自分の財産として持ち帰ってもらうことが実現できればと思っています。

──インスピレーションの連鎖を起こしたい、そう考えるようになったきっかけはあるのでしょうか?

僕がそのようなプロセスを最初に体験したのが、「バーニングマン」というフェスティバルなんです。バーニングマンはアメリカ北西部の人里離れた荒野で開催されるアートフェスティバルで、参加者は一週間ほどの共同生活を送りながら時間を過ごします。その過程で参加者は、自身で作品をつくったり、作品を持ち込んだりしてフェスのコンテンツを作り上げていきます。

実際にこのフェスに参加したとき、僕は衝撃を受けたんです。今まさに目の前でカルチャーが生まれてるって思いましたね。参加者がつくった作品からインスピレーションを受けてまた別の作品が生まれていく様子は、まるでインスピレーション連鎖が起きているようでした。

このバーニングマンでの経験がBnAにつながっています。BnAの関係人口が増えていき、ひとつの大きなカルチャーが生まれればと思っています。

そのエリアに精通したキュレーターを起用

──BnAの各ホテルにはさまざまなアーティストの方が制作に参加されますよね。やはりその土地側を踏まえたキュレーションをしているのでしょうか。

街を歩きながらアーティストを一人ひとり見つけているのではなく、その街のアートコミュニティのリーダー達と関係性をつくり、彼/彼女らにキュレーションを依頼しています。コミュニティリーダーの方って、アーティストの人柄や哲学といった深い文脈まで考えてキュレーションしてくれるので、その街に身を浸さないと分からない肌触りや空気感をホテルにも投影できるんです。

京都であれば、ギャラリストや大学教授、広告代理店の社長からパーティの帝王といったように多様なバックグラウンドの方にキュレーションをお願いしているのですが、それぞれ社会とアーティストの接点になっていた方々ですね。

──「その街に身を浸さないと分からないような肌触りや空気感をホテルに再現する」という点について、BnAは高円寺と秋葉原、京都、日本橋というようにさまざまなエリアにて展開していますが、その過程でどのように都市全体を解釈しているのでしょうか?

そうですね。例えば日本橋はオフィス街ということで、都会の中の隠れ家のような非日常感が出せればと思っています。他にも、高円寺だったらグランドレベルコミュニティ、秋葉原だったらシェアオフィス、京都だったら観光などといったようにエリアの特性を反映してホテルのコンセプトをデザインすることを目指しています。ただその地域の特性や価値、コミュニティは結局その地域の一員にならないと分からないので、運営する中で常にアップデートしていますね。

ホテルを舞台として「文化」と「経済」をつなぐ

──インスピレーションの連鎖が起こる場づくりというものを考えたときに、なぜフェスやギャラリーではなく、ホテルなのでしょうか?

ホテルはフェスやギャラリーに比べて圧倒的に滞在時間が長い。だからこそ、アート作品をじっくりと解釈してもらい、背景にあるカルチャーまで理解してもらうということができると思っています。

あとは、同じ時間にたまたまバーにいたアーティストと宿泊者が意気投合したり、アーティスト同士の出会いがあったりと、宿泊者とアーティストとのタッチポイントがつくりやすいですね。ホテルであれば、宿泊してくれる方にも、BnAに関わってくれるアーティストの方にもよいインスピレーションを受け取ってもらいやすいのかなと思いますね。

──「宿泊者とアーティストとのタッチポイント」という話に関連して、宿泊費の一部を部屋を制作したアーティストに還元するという仕組みづくりも、BnAの特徴的な取り組みですよね。

そうですね。もともとは、ホテルにアートを入れることによって、ホテルの価値が継続的に高まるのならばその分はアーティストに還元していくのが筋だろうということで始まったのですが、パトロネージュのモデル的にも機能しています。

加えて、より長期的な視野の話をすると、インスタレーションをアーカイブしていくための仕組みづくりという側面があります。インスタレーション作品ってその特性上、長期間の保存や展示がむずかしいんです。一定以上のスペースが必要だったり、都度のメンテナンスが必要だったりと、かなりコストがかかるんですよね。

なので、海外のアーティストが日本のインスタレーション作品をみたいと思っても、感度のいいクリエイティブと出会える場所がないと。そういうときに、BnAが常設のインスタレーション拠点として、ひとつのディスティネーションになれば、文化的な価値も積み上がっていくのかなと思っています。

非合理性の軸を持つ

正直、この部分は僕たちもかなり大変ですね。部屋ごとにコンセプトが異なり、参加するアーティストも違うというのはチャレンジングな試みでオペレーションコストも膨大です。

例えば、プロジェクトマネジメントという点は、部屋の数だけ並行して異なるプロジェクトが動くわけで、オペレーションの面でも作品の種類によって異なる機材を管理しなければなりません。メンテナンスという点でも難しい部分が多いです。デジタルインスタレーション系の作品だとメンテナンスに専門的な知識がいるし、設備についても部屋ごとに品番が違うので、修理が大変だったり。

あとは、アーティストが作品として客室をつくるというのも、チャレンジな試みなんですよね。建築って最初に全てプランニングしてから、あとは実行するだけという状態でプロジェクトを進めていくのですが、アートでは「つくりながら考える」のが普通です。この部分の相性があまりよくなく、難しいところです。

内装が決まっていない段階で照明の位置を決めなくてはいけないなど、建築だと壁床天井の備品の位置は1番最初に決めるんです。アーティストからすると作品をつくる過程で照明の調整を変えていきたいというのは必ずあるわけで、普段の制作とは異なり、アーティストには制約がある中での表現が求められます。この部分の折り合いの付け方に苦戦している方が多い印象です。

──BnAはどのようにその難しさを乗り越え、持続的なかたちで実装しているのでしょうか?

結局はロマンみたいなところに行き着くのではないでしょうか。普通に考えれば採算性が合わないけど、それでもやるんだという気持ちや忍耐強さが大切です。バーニングマンの熱狂を自分でもつくりだしたいというところから、今まできていますし、その熱意は絶対に必要だったなと思います。

──なるほど。BnAのような強いコンセプトをつくるためには非合理性と合理性の両軸を持つことが必要なのかなと考えていたのですが、そのバランス感覚が絶妙だなと感じました。

ありがとうございます。バランス感覚があると言われたことはなかったのですが……(笑)ただ、もう少し合理性という話もしておくと、不動産企画を持続的に行なうためには、デベロッパーとのコミュニケーションは大切ですね。やはり、都心で不動産をやりたいと思うと10億とか20億とかかかっちゃうので、その部分をBnAが負担するよりは、協業のかたちを取るほうが現実的です。

都市を面白くしていくためのキーワード

──デベロッパーとコミュニケーションをとるうえでは、カルチャーの価値をどのように指標化するかは難しい問題のかなと。以前、Placy代表の鈴木綜真さんと話した際も、文化価値を経済的指標に組み込めれば、C(Consumer)とB(Business)とG(government)の連携がスムーズになり、都市が面白くなるのではという議論がありました。

指標という視点だと、リチャード・フロリダのクリエイティブ資本論的な話になるのかなと思うのですが、肌感としてコミュニケーションを円滑にするための方法を考えると、短期的な物件の価値向上だけでなく、長期的に見たときのエリア価値の向上に目を向けて、その点をアピールするようなアプローチは存在すると思います。

デベロッパーとしても、大規模な商業施設やマンションを建てていくだけでは、街が死んでいってしまうという課題意識があります。「自分たちの物件があることで、街にこんないいことがあるんです」という点をしっかりと考えて伝えていけば、コミュニケーションがスムーズになるのかなと思いますね。そこに説得力を持たせるためにも、まずは地価の安いところで小さくはじめて、実績をつくっておくのも大切かなと。

──都市はあまりにも複雑でその変わらなさに戸惑ってしまうこともありました。ただ、お話をうかがう中で、たとえ小さな空間からでもまちは面白くできると信じることが大切なのかなと感じました。

そうですね。精神論的な話になってしまうのですが、こんな未来を実現したいというロマンを持つこと、それ信じて愚直にアプローチし続けることは大切だと思います。BnAでは、そのような信念のもとに、まちをより面白くしていくためのアートプロジェクトも多数進行中なので、今後の展開にもご注目いただければ!

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