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2023

COVID−19以降の世界に求められる文化復興と観光産業の良好なエコシステム──調査レポート「CFP」を読み解く Vol.2

夜間帯の文化価値の評価に関わる調査

「Creative Footprint TOKYO」(以下、CFP)」とは、観光庁によるナイトタイムエコノミーの推進施策のうちのひとつである「夜間帯の文化価値の評価に関わる調査」をまとめたレポートです。ナイトタイムエコノミーを含む体験型観光を観光業だけに完結するのでなく文化復興やまちづくりと有機的に連結させることを主張しており、単なる調査にとどまらず課題解決に向けた提言と、提言を実行していくためのステークホルダーの関係構築を行うことを目的としています。

前回記事では、人生の変革を促す旅のあり方として「トランフォーマティブ・トラベル」という概念を紹介しました。そんな時代において重要性を増しているのが、ローカル(地域性)とオーセンティシティ(本物感)です。その土地を愛するという個人的な想いが観光客を魅了して地域に呼び込む力を持つのです。

今回は、「観光と文化」に注目し、両者の間に持続可能な関係性をつくる方法を考えたいと思います。

文化コンテンツが観光をより豊かなものにする

文化コンテンツがどのように観光推進に貢献するかを考えたとき、2つのケースが挙げられます。

ひとつは「文化コンテンツ自体が観光の目的となるケース」です。音楽やアート、ショーパフォーマンスなどの文化コンテンツは観光客を地域に呼び寄せ、飲食や宿泊、二次交通といった観光消費をもたらしてくれます。とりわけナイトコンテンツは、観光消費の中でも最大の金額を占める宿泊に繋がるものとして期待を集めています。そのため日中は多くの観光客が訪れるものの、夜間には閑散としてしまう日帰り客中心の観光地においては、その地域ならではの様々な文化資源を活用したナイトコンテンツの充実が試みられています。

ふたつめは「文化コンテンツやデザインが体験価値を大きく向上させるケース」です。現在、政府は「文化財の保存から活用へ」という政策転換を推し進めています。なかでもユニークベニューと呼ばれる神社仏閣、美術館などの文化施設や景勝地の有効活用が重点課題とされています。そのため、既存のスペースに新たなコンテンツや斬新なクリエイティブをかけ合わせることによって、体験価値を高めることが試みられています。

他にも、建築デザインとインテリアデザインにこだわったデザイナーズホテル・地域の文化や名産品、あるいはその地域ならではの体験を演出する個性的かつコンセプチュアルなホテル。料理やサービスのクオリティだけではなく、空間の体験価値、飲食提供のプレゼンテーションにこだわったレストランやバーなどが存在します。その一例として利用客の体験価値を上げるため、文化コンテンツにこだわった施設として「TRUNK(HOTEL)」というコミュニティホテルがあります。

カルチャーハブとしてのTRUNK(HOTEL)

TRUNK(HOTEL)は、東京都渋谷区神宮前にある株式会社TRUNKが運営するブティックホテル。「自分らしく無理せず等身大で社会的な目的をもって生活すること」を「ソーシャライジング」と定義し、これを空間づくりのコンセプトとして掲げています。

宿泊客だけでなく、クリエイター、音楽・ファッション・アート好きが気軽に集まれる場、さまざまな文化を介して新しい出会いや融合が生まれる場の提供を目指しています。ホテルの内装やインテリアには古材や廃材を再利用し、客室にあるアメニティやミニバーなど細部にわたってこだわり、ロビーに併設されたバーではパーティーやイベントが開催できるなど、「ソーシャライジング」を体感できるさまざまな仕掛けがホテル内に施されています。

このように独自のコンセプトに沿った文化コンテンツを発信することよって、TRUNK(HOTEL)は既存のホテルの枠組みを超え、カルチャーハブとして業界にイノベーションをもたらそうといています。

外国人目線によりに見い出される日本文化の真の価値

TRUNK(HOTEL)の事例は、コンセプトに沿ったユニークな文化が観光産業の振興に貢献できる可能性を示唆しているといえます。他方、ここで忘れてはならないのは観光を通じていかに文化復興を進めるかという視点です。安易な観光の商品化が文化の劣化を招くケースもあります。コロナ禍以前にはオーバーツーリズムが文化に対する驚異にもなっていました。このような問題が懸念される中で、観光は文化復興にどのようなメリットをもたらすのでしょうか?CFPの中で若林恵さん(前『WIRED』日本版編集長)はこのように指摘しています。

日本が作り上げてきた独自の文化には海外からの高く評価されているものが多くある。大切なのは、海外から評価されていることを喜ぶだけでなく、その理由を知ることだ。それにより、我々が大切にしてきた価値観を知ることができる。日本メーカーが作ったターンテーブルやCDJ、シンセサイザーがなければ、今のヒップホップやテクノミュージックは存在しなかっただろう。高価な楽器を購入できなかった人たちにも音楽制作の扉を開き、全世界に広まったクラブカルチャーの基盤になっている。海外とのコミュニケーションを通じて、自分たちの価値観感が世界中の人を見るとエンパワーできることがある、ということを知るべきだ。

このような指摘を受けて、CFPには以下の提言がなされています。

文化表現とはつくり手と受け手の相互作用からなる進化や再創造のプロセスだ。特に、異なる文化的背景や感性を持つ観光客は、新しいまなざしで地域固有の文化の新たな面白さを発見する。つまり、文化に対してその価値の再発見・再創造の機会を提供してくれるのが観光なのである。

観光と文化が紡ぐ経済エコシステム

21世紀には、地方公共団体や地域の有力者・有力企業が主導する形での文化復興が活発になりました。新潟県越後妻有地域で開催される世界最大規模の国際芸術祭である「大地の芸術祭」や、瀬戸内海に浮かぶ離島・直島、豊島、犬島で展開される現代美術に関わるさまざまな文化活動の総称である「ベネッセアートサイト直島」を筆頭にして、全国各地で地域の生活や特色を生かした芸術祭や文化拠点づくりが盛んに行われました。今後は観光による文化復興を目指した文化への投資がさらに活発化されることでしょう。

このような流れの中で、都市部において訪日観光客の誘致に成功した事例として挙げられるのが、チームラボと総合デベロッパーの森ビルが事業主体となった「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」です。チームラボボーダレスの訪問客は年間で230万人であり、そのうちの半数が外国人でした。また外国人訪問客のうち、この施設を来日の目的のひとつにした人がその半数にのぼります。

施設では、観光客を呼び込むため、デジタルアートの聖地としてブランディングを行い、旅行前にチケットの購入ができる仕組みを作りました。このような取り組みにより、観光事業が新たなデスティネーションをつくるために文化復興にコミットする、そして得られた観光収入を文化への再投資に向けるといった、観光産業と文化復興の良好な経済エコシステムの構築に成功しました。

このような取り組みを実現させるには、ディベロッパーが単に施設を賃料貸しするというのではなく、自らが事業主体となり、クリエイターやアーティストと共にコンテンツをつくることが重要です。

若き才能にこそ向けられるべき観光投資

観光は文化復興の新しい経済エンジンになり得ますが、その投資は既に商品化に成功した知名度あるコンテンツやクリエイターに対してだけでなく、ローカルなコミュニティと新しい才能にも向けられるべきです。

高円寺のアートホテル「BnA HOTEL」では、ホテルの収益をアーティストに還元すると共に、旅行者と日本のアーティストが交流できる物理的なプラットフォームを構築する仕組みをつくっています。「泊まれるアート」をテーマにしており、 旅行者は気鋭のアーティストたちがつくり上げた一つの作品の中に泊まるという他にはない体験ができるだけでなく、その背後にある作者たちのコミュニティーにもアクセスできます。

世界のアート市場は約6兆円に対して、日本の市場はその0.5%にも及びません。アート市場の小さい日本は、才能あふれるアーティストの発信の場や、成功への道の多様化を確立することが望まれます。そのためには、アートに関心が高い海外旅行者が日本のアート・コミュニティーに容易にアクセスできることも重要です。今後は、創造性豊かなコミュニティーがつくり出す作品を持続可能なかたちで世界に発信しマネタイズできるモデルづくりが急務といえます。

このような取り組みを実現させるためには、文化コンテンツが古くなったマス産業をアップデートしていく役割を担うことが大切です。観光においても、観光産業が文化を取り込んでしまうのではなく、文化が新しい観光のあり方を提案し、リードしていく姿勢が観光と文化の間の最適なエコシステムを見つけ出す鍵となることでしょう。

次回の記事では「都市と文化」に注目し、多様性を持った都市をどのように作り上げるかについて見ていきたいと思います。


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