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2023

GDXによって実現する、行政と市民が共創する都市の姿──Z世代起業家と考える、”公共”のこれから

「公共」のあるべき姿や、その変革におけるデジタルテクノロジーの役割

公共と市民。サービスを作る側と使う側。その分断を解消していくことこそが、都市で暮らす人々の暮らしを豊かにしていくはず。

行政と市民との接点を考えたときに問題点として挙がるのが“申請主義”です。公共制度を行使する際には認知や申請の手間が発生する。これによって人々が本来の使える権利が行使できなくなる。

そんな申請主義を解決するために、2002年生まれの高木俊輔さんは「Civichat」を開発しました。自分にあった補助金等の制度がLINEでわかるというサービスで、これによって誰もが申請の手間なしに公共制度を行使できます。

今回は、高木さんとともにこれからの「公共」のあるべき姿や、その変革におけるデジタルテクノロジーの役割、そしてN高を卒業したZ世代起業家としての高木さんの側面まで、議論していきます。

教育の効率化によって“選択と集中”が生まれる

──最初に高木さん自身について伺いたいです。高木さんはN高出身とのことですが、なぜN高に進学を決めたのでしょうか?

普通の高校に通っていても「つまらないな」と思ったのがきっかけです。僕は、サッカー推薦で香川の高校に進学したのですが、そこでの雰囲気が合わないと感じていました。

一方。インターネットでは面白いことをしている人がたくさんいて、こんなに簡単にコミュニケーションがとれるのに、地元の高校では興奮するような経験ができない。そのときにインターネット上で活躍する同世代が集まるN高の存在を知り、通っていた高校を辞め、N高に進学することにしたんです。

──N高に入学していかがでしたか?

N高という環境に身を置いてみて感じたのは、N高は教育の非効率な部分をテクノロジーによって効率化したものだということ。予備校のオンライン授業ってあると思うんですが、通信制のN高は全ての授業がそれと似ているんです。こうなると、いくら生徒数や授業数を増やしてもサーバー代しかかからず、人件費も増えない。教師は授業をしている分の時間を生徒個別のメンタリングの時間に充てることもできます。

また、高校の単位取得に必要な工数を減らすことで、「何をやるか」が生徒に委ねられているのがN高の特徴であり、よいところだと思ってますね。結果として、”縦の多様性と横の多様性”が生まれて、N高には多彩な人たちが集まっています。

──縦の多様性と横の多様性って何でしょう?。

縦の多様性は、お金持ちの家庭の子どもがいたり、そうでもない人がいたりと、社会的階層の異なる人々が集っていることで生まれる多様性です。横の多様性は、スポーツができる人や芸術に長けている人、勉強ができる人といった分野の多様性が生まれていることを意味しています。

コンピテンシーとZ世代

──いまの情報社会の中で、興味関心が多様化しているZ世代たちに求められているのはN高のような環境なのかなと思いました。

そうですね。もちろん全員がそうではありませんが、自分の好きなことを伸ばしていきたい、その上で井の中の蛙にならないように多様な価値観に触れたい、というのは僕たちのような世代が感じているリアルだと思います。僕自身も同期や先輩、後輩の活躍を聞いたり、多様の価値観に触れていくことがかなり刺激になりました。

N高の面白さについてもうひとつ付け加えると、N高生には共通してコンピテンシーが備わっていると思っています。コンピテンシーというのは、日本語でいうと知恵、汎用能力を意味する言葉なのですが、思考のための思考というものです。もう少し具体的にいえば、哲学書のような抽象的で100年後も残るような本質的で汎用性のある言葉をいかに生み出せるかという話ですね。

──コンピテンシーの考え方は、生まれたときから情報に囲まれているデジタルネイティブ世代にとって、重要な視点になっていきそうです。

コンピテンシーは骨と肉の骨に当たる部分だと思っていて、孫子やシェイクスピアを読んでいるだけでは行動には移せないけど、そこに世界のトレンドや専門領域固有の知識が合わさることで、自分や世界にとって本質的に価値ある取り組みができるようになるはずです

わたしたちの世代はインターネット上の多様な情報を取捨選択している中で、自然とコンピテンシーの感覚が備わっていくのかなと思います。その上で、流行り物の知識を得るためにN高を活用している人が多い。これがN高にいる人々が面白い理由で、自分たちの世代の強みになると思います。

大きな政府・小さな政府に対してのソフトウェアガバメント

──Civichatについても聞かせてください。高木さんのような10代がGovTechという「渋い」領域に取り組むんでいることが、とてもユニークだと感じています。高木さんがCivichatを開発する経緯や理由について、改めて教えていただきたいです。

海外留学に行くために奨学金について調べていたら、給付型で海外に行ける「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」というものについて知ったんです。奨学金というと借金のイメージをがあったのですが、よくよく調べてみたら給付型のものもあるあけです。このような優れたプログラムをなぜみんなが使わないんだろうと考えたときに、“知らないことは検索できない”という認知格差の問題に行き着きました。

認知格差について深堀りしていったときに「申請主義」というワードに出合ったんです。申請主義とは、市民が行政サービスを利用するためには、自主的な申請を必要とするという状態を指す言葉です。ある人が公共サービスの需要要件を満たしていたとしても、それを教えてくれる人が誰もいないためサービスを利用することができない。この申請主義、海外では民間による問題解決の動きがあるのに、日本では少ない。それなら自分たちでやってみようということでCivichatが生まれました。

──公共における認知格差をなくすことが、Civichatの目指していることなのでしょうか。

真の目的はソフトウェアガバメントの実装にあります。政府のあるべき姿として、大きな政府と小さな政府という考え方がありますよね。どちらが優れているのかは長年議論されており、答えの出ない問題です。この二項対立のなかでいま注目されているのが、ソフトウェアガバメントです。

行政機関が担っている機能の一部をソフトウェア化することで、一人ひとりに最適化された政府をつくる、そんな未来を実現する一助になればと思っています。

──行政は各自治体によって運営体制から施策の規模までさまざまな違いがあると思うのですが、それらを一意にソフトウェア化するにはどのような視座が必要なのでしょうか?

システム化とアドリブ化を効率的に組み合わせることが大切です。仕様と運用をどう切り分けるかという話で、共通化できるところは共通化し、不確実性の高いところに対しては、アドリブでやっていく手法です。

実際に、今の行政機関が抱える課題として、悪い意味での地方分権があります。各自治体によって運用している行政システムがバラバラなため、自治体間のコミュニケーションがとれない。デジタル庁もこの課題を解決するために、行政機関に横串を通す活動をしています。やはり共通化できることはシステム化して、統一のソフトウェアを使っていくことが必要ですね。

なので、市役所窓口から人がいなくなるわけではありません。なぜならそれはアドリブの部分であって、運用の部分だから。ただみんなが毎回絶対やるような転居手続きは、窓口に行かなくていいよねという話です。そんな未来が作り出せればと思っています。

お節介な政府であってほしい

──ソフトウェアガバメントの実装を目指す中で、Civichatとして申請主義の是正だけではなく、「そもそも、どのような公的支援があるべきか」といった政策に関わっていくこともあるのでしょうか?

僕は政府にはお節介であってほしいと思っています。例えば、マイホームを買いたいときにパッと通知が来て、使える補助金リストが提示されるような仕組みが実現していくといいなと思っています。これを実現するには、Civichatを利用してくれる自治体が増え、どのような人がどのような公共制度を求めているのかというデータを溜める必要があります。

データが溜まれば、政策の効果測定やその最適化が可能になります。これによって、政策を継続的に改善する仕組みが整い、行政であってもアジャイル型にプロジェクトを回すこともできます。EBPM(証拠に基づく政策立案)という概念として知られており、いまGovTechの世界でも注目されている領域ですね。

──面白いですね。ユーザーの顔が見えにくいというトップダウン型のアプローチの弱点を、デジタルの力で克服していくことができますね。

そうですね。ボトムアップアプローチとトップダウンアプローチの接点としてCivichatが機能すればと思っています。Civichatを利用するユーザーからデータを提供してもらうことで、人々の意見が行き届いた政策提言を可能にしていきたいですね。

今のGovtech系のサービスは、自治体の構造を改善していきたいというところから始まっているものが多いのですが、僕たちは自治体と市民どちらもの視座を持ったサービスでいたいです。

経済性と利便性のバランス

──自治体と市民どちらをも大切にするときに難しいのが、事業の社会性と経済性のバランスを取ることだと感じました。株式会社としてサービスを運営する上で、高木さんはこのバランスをどのようにお考えですか?

難しいですよね…(笑)。例えば、米国のNPO団体のなかには社会にとって価値ある取り組みをしつつお金を稼ぐことができている団体もありますよね。僕が目指したいのは、経済性だけを追求することでもなく、社会にとってよいことをしているから儲からない状態でもなく、その両方を追求することなんです。

──申請主義のような課題は顕在化しやすいものの、それをビジネスを通じて解決するのが難しいからこそ、いままで解決に向けた動きが少なかったという側面も大きいのでしょうか?

本当にそうですね。自分たちは資金調達もしているのですが、投資家の方に相談をする際に「どうやってビジネスとして成り立たせるの?」と問われ続けていました。その度に、ビジネスモデルとして色々な仮説を持っているもののまだ確証はない、という返答を正直に繰り返していきました。正直な対話を続けた結果として、East Venturesさんが僕らを支援してくれることになったので、非常にありがたかったです。

顕在化してるけれどビジネス化が難しい課題は世の中に多く存在し、これを解決するには公共調達という視点から考えるのがいいと思っています。

──公共調達、ですか。

最近、GovTech系で注目されたのが「東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト」です。オープンソースで作られているこのWEBサイトは、誰もがコードを確認できて、誰もがWEBサイトの参加に関わることができます。

オープンソースでのWEBサイトは、複製可能であるため今まで公共で使用されることがなかったのです。ただ、東京都ののコロナ対策サイトでは、台湾のIT大臣のオードリー・タンさんが開発に携わったりと、世界中の人たちが協働して1つのものを作り上げることが実現したんです。これによって、もともと原価があまりかからないものならば、オープンソースにしたほうが、社会貢献と金銭的な報酬が相関するとは限らないという資本主義の歪みを起こさないよねということが証明されました。

これからは、公共が積極的にオープンソースソフトウェアを開発していき、それに貢献してくれた人に対してお金を払うという仕組みができればよいのかなと考えています。

──オープンソースのソフトウェアを一緒に作って、公共が貢献した人にインセンティブを付与する。公共と民間の新しい関係性が生まれてくるように感じました。

実は、貢献した人に対してインセンティブを支払う仕組みは、ブロックチェーンと相性がいいんです。ブロックチェーンというと投機対象としてのビットコインが注目されがちですが、マイクロトランザクションと呼ばれるインターネット上での少額決済を実現できます。決済の手数料があまりかからなかったり、中央集権型でなくネットワーク型で個々の取引が成立したり。

その地域に住む人々が自分のリソースを使ってDIY的に行政のシステムを作り変えていく。その貢献に対して、公共はインセンティブを支払う。この仕組みが浸透していけば、行政と市民が共創する新たな都市や地域のあり方が見えてくると思います。

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