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2023

「不動産」を切り口に人々や都市を豊かにしていく──「KAGANHOTEL-河岸ホテル-」を手掛ける株式会社めい創業者に聞く、”関係性づくり”としてのまちづくり

ライフスタイルやカルチャーを豊かにする不動産のかたち

若手現代アーティストと世界を繋ぐ滞在型複合施設「KAGANHOTEL-河岸ホテル-」。職住一体型クリエイティブセンター「REDIY-リディ」。京都にて若手アーティストの文化拠点として機能している同施設を手掛けるのは、不動産企画会社の株式会社めいです。職住一体型住居を切り口に、人々に多様なワークライフスタイルを提供しています。

今回は、そんな株式会社めいの共同創業者である扇沢友樹さん、日下部淑世さんにお話をうかがうことで、ライフスタイルやカルチャーを豊かにする不動産のかたち、について考えていきます。

不動産企画に込められた想い

──最初に株式会社めいについて伺いたいです。お二人はどのような想いのもとに会社を創業したのでしょうか?

扇沢さん:大学を卒業する直前の2011年に日下部と出会ったのが、株式会社めいを創業するきっかけです。僕の不動産という興味関心と、日下部のアーティストが活躍できる社会づくりという興味関心が合わさり、株式会社めいが生まれました。

僕が不動産に興味を持ったきっかけは、人口減少社会の中で不動産業界のゲームチェンジの流れを感じたことでした。今までは不動産事業にとって大切な資源がお金→土地→人の順番だったんですが、人が減り土地が余る僕らが生きるこれからの時代においては人→土地→お金の優先順位が逆転すると気付いたんです。そこで、入居者のことを第1に考え、人生に貢献できるような賃貸住居をつくるにはどうすればいいかという問いから、この事業を行なっています。

日下部さん:私の母は画家だったのですが、精神を病んでしまい亡くなってしまいました。それをきっかけに、アーティストや個人事業主といった、自分のやりたいことを見つけ、それを形にしようとする人たちが豊かに過ごせる社会の姿を考えるようになりました。そうしたことを考えていたときに、扇沢と出会い、ともに会社を創業しようと決めました。

──昨年の秋に開業した、河岸ホテルについてもお話をうかがいたいです。

扇沢さん:河岸ホテルは、京都中央卸売市場エリアに位置する職住一体型のホテルです。築45年、しばらく使われていない建物をリノベーションして生まれました。ホテルでは、現代アートの若手芸術家が共同生活を送っています。B1から3Fまではアーティストが主体の空間になっていて、それぞれの階にシェアスタジオやギャラリー、シェアハウスなどが位置していて、4F-5Fは一般の方でも泊まれるホテルになります。5Fの各個室には、河岸ホテルに滞在しているアーティストの作品が展示してあり、アーティストと宿泊する方との接点をデザインしています。

新しい関係性づくり

──河岸ホテルはビジョンとして「新しい関係性づくり」を掲げているかと思います。どのような経緯でこのビジョンが生まれたのでしょうか?

扇沢さん:尊敬する大島芳彦さんという方の教えを自分なりに解釈した結果、「新しい関係性をづくり」というビジョンが生まれました。大島さんは”blue studio”というリノベーションスタジオを経営しているのですが、「ここでなければ、いまでなければ、あなたでなければ」ということをいつも話しています。

この言葉はリノベーション界の般若心経だと思っています。ある建物をリノベーションするときに、ここでなければならない理由、今でなければならない理由、自分がやらなければならない理由の3つを明確にした上で進めていく。

僕は、これを「関係性」の話だと理解しました。3つの理由を明確にすることは、エリアと建物の関係性、社会や時代とエリアの関係性、建物や運営者と入居者の関係性を、再構築し、豊かにすることに等しい。河岸ホテルをきっかけに新しい関係性が生まれたり、既存の関係性がより豊かになればという想いがあります。

──「新しい関係性づくり」をどのように実践されているのでしょう?

扇沢さん:河岸ホテルで実践しているさまざまな関係性づくりの中でも、特に挑戦的なのが、「ファイナンス(資金調達・資金運用)」という視点から関係づくりを行うことです。

ファイナンスという言葉からは、お金を借りることや、投資を募ることが想起されると思います。しかし、僕たちはファイナンスを上手に活用することでアーティストと社会との新しい関係性づくりができるのではないかと考えています。

例えば、河岸ホテルのオーナーを100名募って、100名とともに事業を育んでいったら、単なるお金の枠を超えた、新たな関係性が生まれていくのではないかと思うんです。そう考えたきっかけは、不動産特定事業法という法律の緩和にあります。小さな会社でも小口の投資を募れるようになったこともあり、河岸ホテルも共同出資型の経営することにしたんです。

しかし、この方向での経営を進めようとしたところ、法律要件の変更などがあり難しく、現在は社債を使って23名から投資を集め、銀行からの融資も受け擬似的な共同出資型の運営を行っています。

投資をしてくれた23名の方は、僕たちを応援してくたり、相談にのってくれたりと、経営を行う上で欠かせない存在となっています。それと同時に、僕たちのことを信用し、期待してくれる方々を裏切らないように気を引き締めなければと常に考えています。

──100人の方が河岸ホテルを共同経営をすると、そこに入居するアーティストに対して100人のメンターがつくことが実現できるのは、全く新しい関係性づくりになると思いました。所有権をどう分散させるかはこれから重要になっていくのではないかと考えています。例えば、プラットフォーム協同組合主義という考え方があるのですが、それはプラットフォームを運営会社だけが所有するのではなく、プラットフォームに関わる、さまざまなステイクホルダーが運営に関わることができるという考え方で、それに近しい視点だなと。

扇沢さん:面白いですね。例えば、オンラインサロンなども人々の関係性にまつわるビジネスですが、どうしても運営者と参加者との間に力関係ができてしまう可能性があります。一方、所有権を分散するというアプローチを取ると対等な関係性が生まれていくのが面白いと思っています。

共同体意識の材料としての不動産

──エリアと不動産との関係性についてはどのように捉えているのでしょうか?

日下部さん:河岸ホテルがあることで、エリア内外から未だ出会っていなかった人々が集まって、それぞれの人生が交差するというのが理想です。エリア内に、自らの手で暮らしをつくることができる場や人々が集まり活動できる場を用意することで、そこには自然に人が集まっていきコミュニティが形成されていく。なので、共同体意識の材料としての不動産があるイメージですね。

扇沢さん:これは、経営哲学に通じる部分が大きいです。場所が余り、人口が減っていく時代を生きる私たちは、DIY精神のもとに、自らの手で暮らしや仕事を作っていくことで豊かな生活が手に入るのでは、と思っています。場の共創を通じて、無理のない範囲で人間関係を構築していくことで、幸せな生活を送ることができるはずです。

──お二人は京都中央卸売市場エリアを中心に活動していると思います。このエリアについてはどのように解釈しているのでしょうか?

日下部さん:このエリアの特徴は、「京都」という言葉から最初にイメージする観光地のエリアではなく、地元住人の方が多いエリアということです。自分たちのような新参者が、エリアに古くからいる人々の生態系を壊さないように、ということは前提として、地元民とアーティスト、外からくる宿泊者が共存するコミュニティをつくることができれば理想だなと考えています。

持続可能な不動産企画とは?

──社会と不動産との関係について、COVID-19の影響により不動産業界は大きな打撃を受けたかと思います。これからの時代に不動産企画を行い、その採算性を合わせるためには、どのような視座が必要だと考えていますか?

日下部さん:そもそも論ですが、まずは身の丈に合う物件を探し続けること。もしいい物件が見つからなそうであれば、波が来たときに乗る準備をすることが大切だと思います。バブルの時も、不良債権の処理のタイミングでクリエティブな物件が現れました。経済とカルチャーが盛り上がるタイミングはリンクしています。だから時が来るまで、待つという選択肢もあると思います。

扇沢さん:僕が個人的に大切だと思っているのは、コンセプトの強度を上げていくことです。コンセプトは有る無しではなく、強弱で、強ければ強いほど時代や国や世代を超えて、広く人に受け入れられると考えています。そうすると、応援して資金を提供してくれる人はきっと現れるし、人々が足を運びたいと思うディスティネーションになることもできると思います。

その上で、これからの不動産のコンセプトを考える際の切り口というものは、2つ挙げられると思います。

1つは空気感をつくること。オーセンティシティーに近く、言語化しづらいものです。その場所に行くことでしか味わえない空気感をいかに作っていくかが、これからの場づくりには求められると思います。

2つめは歴史の積み重ねです。その場所で行ったこと、その場所での人々のストーリーをアーカイブするものとして、場所があると思います。例えば、河岸ホテルであれば入居しているアーティストが作った作品をホテルで買い取って館内に飾っています。ホテルで生まれた作品を、ホテルに還元していくことで建物全体として歴史が積み上がっていきます。

──面白いですね。その街の歴史や空気感をアーカイブするものとして不動産が機能していくことで、人々を惹き付けるようなインディペンデントな魅力が生まれるのですね。

扇沢さん:そうですね。この2つの機能を不動産が担っていくことが、これからの時代を豊かにしていくために必要だと思います。COVID-19などを背景に、リアルの場所の価値を問われる機会は増えていますが、関係性や空気感、歴史といった目には見えないものをデザインできることも不動産の価値なのでは思います。


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